ポーランド民族舞踊入門


1.5つの民族舞踊
2.ポロネーズ(1)
3.ポロネーズ(2)
4.「マズルカ」
5.クラコヴィアク
6.まとめ








※「スーパーピアノレッスン ショパン」(NHK出版, 2005)掲載の拙稿に加筆したものです。無断転載はご遠慮下さい。平岩理恵

6.まとめ

最後に、日本人にとって最も理解の難しいテンポ・ルバートとアクセントの置き方について少しお話します。先ほどご紹介したマズレク・リズムを持つ舞曲の仲間は、舞曲としてだけでなく、歌曲、つまり民謡としても長い歴史を持っています。歌は器楽演奏に比べてリズムや音程の自由度が高くなります。一例をあげてみましょう。ポーランド語では基本的に各単語の後ろから2つ目の音節にアクセントがあります。そのためにポーランド語で歌われる民謡を西洋音楽の記譜法で書き起こした場合、本来弱拍であるべき場所にアクセントが来てしまうことや、付点などを施すことなどでは対応できないテンポの伸び縮みが必然的に起きてきます。また同じような理由で、3拍子で記譜してゆくと、途中あたかも2拍子であるかのように聞こえる部分(ヘミオラ)もしばしば出てきます。そういった特徴はショパンの音楽の中にあってもまだ生きています。楽譜に3拍子で書かれているからといって、また速度記号が何も書かれていないからといって、常に<1・2・3、1・2・3>で進んでいくわけではないのだ、ということがお分かりいただけるでしょう。また逆に、テンポ・ルバートをきかせるといっても、むやみにテンポを揺らしてよい、ということではありません。基本的にはベースラインが一定のリズムを刻んでいくのですが、そのテンポの中で「歌詞の都合」や「ステップの都合」のためにメロディが前後に伸び縮みする、というのがルバートの正体なのです。
ポーランドのリズムが皆さんにとってより親しみあるものになりますように!