ポーランド民族舞踊入門


1.5つの民族舞踊
2.ポロネーズ(1)
3.ポロネーズ(2)
4.「マズルカ」
5.クラコヴィアク
6.まとめ








※「スーパーピアノレッスン ショパン」(NHK出版, 2005)掲載の拙稿に加筆したものです。無断転載はご遠慮下さい。平岩理恵

2.ポロネーズ

まずポロネーズですが、その起源や成り立ちは非常に複雑で、ポーランドの音楽学者たちの間でもまだはっきりとした結論は出ていません。ここでは誌面も限られていますので、ショパンの時代に直結するポロネーズについて見てみましょう。
二点注目すべきポイントがあります。一つ目は、ポロネーズという名前がフランス語(当時の貴族階級の公用語)のla danse polonaise(ポーランド舞踊)から取られていることでも明らかなように、19世紀の初頭にはこの舞曲がヨーロッパ中の貴族の館で大変好んで踊られるようになっていた、という事実です。18世紀まで人気の中心であった3拍子の舞踊、メヌエットに取って代わったのが、ポロネーズ、そしてワルツでした。ワルツのような激しい旋回を伴わないポロネーズは舞踏会への入場行進として用いられ、荘厳でゆったりとしたウォーキングダンスとして発展しました(このダンスの踊られる様子はアンジェイ・ワイダ監督の映画『パン・タデウシュ物語』に見事に描かれています)。
もう一つの重要なポイントは、18世紀後半にポーランドの貴族M.K.オギンスキが鑑賞用のポロネーズを書いたことです。それまで舞曲という実用的楽曲でしかなかったポロネーズに、鍵盤楽器での演奏用作品としての形式と詩的な性格が与えられたのです。彼の代表的な作品は『祖国よさらば』(イ短調)の名で知られるセンチメンタルでメランコリックな小品です。これ以降、分割支配下のポーランドでは、ポロネーズが国家の古き良き時代を表現するシンボルとなり、ピアノ曲として、またオペラの中でも盛んに作曲されました。同時に19世紀前半はヴィルトゥオーゾ用に超絶技巧を要する大変華やかなポロネーズがいくつも生まれ、メロディが複雑になるほど簡素化していった伴奏部は、ポロネーズに特有のリズムパターンをより強調するものになっていきました。こうしてショパンの出現までに形づくられたポロネーズの特徴は次のとおりです。